原核生物と真核生物

生きることは食べることだ!
@nifty:デイリーポータルZ:公園とかグラウンドに落ちてるワカメみたいなアレを食べる
興味をもったものを食べてみる、というチャレンジ精神を積極的に応援していきたい私としては、大変楽しい記事でした。さて、今回話題になったこのイシクラゲ。身近な原核生物のひとつです。
ロバート・フック*1が細胞 (cell) を発見し、シュライデン*2、シュワン*3、フィルヒョー*4が細胞説をうちたてて以降、生物の定義のうち、もっとも重要なものが「細胞」です。きちんと申しませば、「膜で仕切られており、体内と体外が区別できるもの」を細胞とよんでいます。この細胞は「核をもつもの」と「もたないもの」に二分されまして、核をもたない細胞を原核細胞、核をもつ細胞を真核細胞とよびます。原核細胞からなる生物を原核生物とよび、真核細胞からなる生物を真核生物とよびます。
我々ヒトは核をもつ真核生物です。みなさんには理科、もしくは生物の授業で、頬の内側を綿棒やつまようじの背でこすりとって、顕微鏡で観察した経験がおありでしょうか。口腔上皮細胞は簡単に採取できるヒトの細胞のひとつで、我々は真核生物であるので、染色液で核を染めて、顕微鏡で観察ができるのです。
しかしながら、前述のように、このイシクラゲは核をもたない原核生物です。よって、染色する核がありません。さて、核がないのなら、どうやって生きているのでしょう?
核がない、というのは核膜がないことを意味します。では、真核生物では核の中に収納されている染色体(タンパク質にDNAが巻き付いたもの)は、といいますと、原核生物の染色体は細胞質基質内に局在しており、それを核様体といいます。核っぽいの、という意味ですね。
原核生物は、このイシクラゲのほかにもたくさんいます。大腸菌。ヨーグルトの中にもいるし、あなたのお口の中にも常駐している(はず)の乳酸菌。パンの発酵に欠かせない酵母菌。これらは細菌類といいます。また、イシクラゲやネンジュモのようなラン藻類。ラン藻類は最近、シアノバクテリアとよぶように改まってきています(藻類と勘違いするのを防ぐため? ラン藻類は細菌類です)。これらはまとめて真正細菌(バクテリア)といい、好熱菌などは古細菌(アーキア)といいます。
原核生物は確かに原始的な生物だと思われますが、強みもあります。生活サイクルがはやい、種が多い、それから極限環境下に適応しているものが多い。熱や酸は、通常、タンパク質を変性させるため、生物が敬遠する環境のひとつなのですが、その過酷な環境をあえて好む好熱好酸菌なんかがいるのですからね。
原始地球で最初に生命が誕生したのは、海底の熱水噴出口周辺というのは有名な話ですが、そうしますと、先述の好熱細菌が原始生命ではないかと考えられます。そして、シアノバクテリアが光合成を行ったおかげで大気中に酸素が蓄積し......という、これまでの生命の歴史を考えると、その系譜であるイシクラゲを公園で拾って食べる、というのは実に感慨深くてナイスな企画だと感じ入ります。
で、このイシクラゲクマムシと同じように乾燥して無代謝状態になる、クリプトビオシスが可能なんだそうで。極限状態に強い生物というのはロマンがあふれますね!

まとめ

  1. 原核細胞 : 核膜をもたない細胞
  2. 原核生物 : 原核細胞をもつ生物
    1. 真正細菌(バクテリア)と古細菌(アーキア)が含まれる
      1. 真正細菌の例 : 大腸菌・乳酸菌・酵母菌(細菌類), イシクラゲ(ラン藻類)
      2. 古細菌の例 : 好熱細菌, メタン菌
  3. 真核細胞 : 核膜をもち, ミトコンドリアなどの構造もみられる細胞
  4. 真核生物 : 真核細胞をもつ生物


注: 人名のカタカナは文部科学省検定済教科書高等学校用表記に準じました。

*1:Robert Hooke

*2:Matthias Jakob Schleiden

*3:Theodor Schwann

*4:Rudolf Ludwig Karl Virchow